グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)
レビュー ![]() 美しく揺らぐ《両義性》。
とても、不思議な小説である。残酷でありながらも《優しく》、美しくありながらも《グロテスク》、理性的でありながらも《不条理》、そんな矛盾を孕んだ小説である。この作品を通して、作者が描きたかったのは、《緩やかな絶望》の世界なのかも知れないが、ラストは《微かな希望》を描いて、物語の幕が閉じて行く。徹底した《両義性》によって貫かれた本作品の世界は、考えるよりも感じたほうが、より理解しやすいのかも知れません。この作品の徹底した《両義性》は、シオドア・スタージョンの世界にも通じるものが、あるように思います。とにかく、これほど《不思議》な読後感を与える小説も、珍しいです。どちらかと言えば、《文学派》の人にオススメの、傑作だと思います。
(追記:この作品の感想は、なかなか言葉にならないので、短歌で作品イメージを描いてみました。《廃園の天使が笑う夏の午後、少年の海に突き刺さる愛(アイ)》。下手な短歌で申し訳ないけど、個人的には、こういう《イメージ》の作品でした。) すごい。
本書以前の短篇集(正確には、本書以前の短篇のリミックス集)、
『象られた力』を読んで、ある程度の予感はあった。 しかし本書は、その予感を裏切り、なお上回っている。 もっと早く読みたかった。 できれば十代の頃に読みたかった。 ボクはSFを好んで読んできた人間ではない。SFとはなんぞやなんて知らない。 そんなわけで、本書を「SF小説の」という限定の下に語ることができない。 だから物語一般として語るが、これは傑作だと思う。 本書は「廃園の天使」シリーズの第一巻にあたる。 その意味で、この一冊では評価しがたい作品ではある。 だが、ただ一冊の作品として終わってしまってもいいとさえ思えた。 下らない粗など探す気さえ起きなかった。むしろ積極的に回収する読みをした。 そうやって、とにかくこの物語を読みきってしまいたかった、経験してしまいたかった。 個人的な嗜好なのかもしれないが、こんな風に思わせてくれる物語はなかなかない。 久しぶりの本格SF、堪能した
本当は続編を読んでから書くべきなのだろうが、面白かったので。
しばらくこういった本格的なSFからは遠ざかっていたので、どんな位置を占めるのかは皆目わからないが、久々にわけのわからない法則でできたわけのわからない世界を彷徨う感覚を堪能した。文章の巧みさも、私のようなSF素人の読者をぐんぐん引っ張っていく要素の一つであろう。 書店で、あるいはこのサイトで表紙を見て気になっている方、ぜひ読むべきだ。ジャンルなど問わない小説の面白さがここにある。 私も続編はこれから手に入れなきゃなのだが、物すごく楽しみ。 世界が滅びる意味はあるはず
数値海岸(コスタ・デル・ヌメロ)の世界を、まずは堪能しましょう。仮想リゾート空間に暮らすAIたちの、永遠の夏の世界。この世界に濃密に秘められた背徳の気配。そしてその背徳を抉り出しながら世界をまるごと蹂躙していく圧倒的な力。
別次元の論理は、それが不可知であることしかつかめない。世界を形作る論理基盤に触れることなく、その異質な現象だけを描いていく。なぜ?なぜ?これがセンス・オブ・ワンダーだ。説明しちゃつまらない。 論理の欠落は、次のシリーズで別なエピソード群として描かれる。やるねっ。 五感のすべてに、さあどうぞ。
ちょいと癖あるひねた友人が、『面白いSFを読みたいんだけど』と聞いてきたら、わたしは迷わず本書を差し出す。(とっくに読んでいる可能性はあるけれど)
正直に言うと、わたし自身は文庫版にて初読したのだが、それはまるで、凄腕シェフの料理をついうっかり、赤字覚悟の大盤振る舞い、ランチのプリフィクス、しかもジーンズにセーター姿で味わってしまったような、情けなくも申し訳ない気持ちになる破目になった。ごめんなさいごめんなさい。今度は必ず、予約して正装で、ディナーをフルコースにて、最後のダイジェスティフまできちんと頂きますから、と。確かに、かっちりと組まれた長いながい活字世界であるのに、五感の総てを心地好く刺激してやまない端整華麗な文章は、読む行為そのものを、『うわっ、快感!』と叫ばせてしまう。ネタバレになるので詳細は書けないが、誰も来なくなったヴァーチャル・テーマパークの落日、そして…と最初のアミューズだけで心を持っていかれてしまうのだ。描かれている総ては、消され直され、撓めて伸ばし、研磨し尽され、と、丹精込めて仕上げられたプロット、血飛沫くほどの情熱で選び抜かれた表現であろうと思う。何が…書かれていても、さわさわさくさく、ふうわりとろり、と、甘くやさしく喉を滑ってゆくのだもの。決して歯に絡みついたり舌にざらついたりしない、手間と時間のかかった(いやほんとうに)逸品を、どうぞあなたも召し上がれ。 年端のゆかぬ子供が、『SFしょうせつってなあに』と聞いてきたら、この本にリボンを掛けて、こっそり枕元に置く日を想像しよう。そしてこう答えるのだ。ありふれた言葉だけれど。 『誰もみたこともきいたこともないせかいを、ものすごい想像力ととてつもない筆力で書いたほんのこと』と。
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クリエーターは「飛 浩隆」です。 この商品を買った人は他にも「ラギッド・ガール―廃園の天使〈2〉 (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)」、「象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)」、「レフト・アローン (ハヤカワ文庫JA)」、「クリスタルサイレンス〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)」、「クリスタルサイレンス〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)」、などにも興味を持っています。 サイエンス・イマジネーション 科学とSFの最前線、そして未来へ
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クリエーターは「瀬名 秀明」「山田 正紀」「堀 晃」「円城 塔」「飛 浩隆」「小松 左京」です。 この商品を買った人は他にも「瀬名秀明ロボット学論集」、「世界のSFがやって来た!!―ニッポンコン・ファイル2007」、「SFが読みたい! 2009年版―発表!ベストSF2008国内篇・海外篇 (2009)」、「人とロボットの秘密」、「デカルトの密室 (新潮文庫)」、などにも興味を持っています。 象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)
レビュー ![]() 官能のスープ
四つの中短篇からなる作品集。
思うに、著者は官能の人なのではないか。 あるいは、官能を言語化することに何かこだわりを持っているのではないか。 「官能の言語化」というと詩的な表現を連想してしまうかもしれないが、 著者の書く官能は、しっかりとした小説の文体で示されている。 表紙の「kaleidoscape」という言葉は、なるほど本書の読書体験をうまく表現している。 あるいは、様々な種の官能を液化させ、スープにして飲み込んでいくような読書体験。 小説家とは文芸家でもあるが、この著者は優れた芸を身につけているようだ。 物語の作り手としても、癖のあるアイデアに満ちたおもしろい話を書いている。 よい意味で期待を裏切る展開がどの話にも組み込まれており、飽きずに読ませる。 四篇のうち三篇は、表現の巧みさもあいまって、非常に官能的で印象的だった。 ただ、短篇ではどうにも窮屈そう。 この密度で、まして兼業作家ともなれば、寡作であることも宜なるかな。 耽美的な滅びの美学
表題の中編「象られた世界」は、見事なサイバーパンクSFだ。具体的な視覚効果をもたらすくらいの緻密な描写力が素晴らしい。「夜と泥の」もまた、映像を見せられているかのような濃密さで場面が描かれている。読んでいてうっとりした。
「呪界のほとり」のみ、小型竜と無頼の冒険家による珍道中で、飛の異色作。ユーモラスで楽しかった。 形に囚われない生命の形態
以下の4つの短編が収録された短編集です。
1.デュオ:113頁 2.呪界のほとり: 48頁 3.夜と泥の:73頁 4.象どられた力:168頁 共通するテーマは、肉体という器に依存しない生命の存在。 幽霊とか霊などではなく、精霊や神でもないが、形を持たない生命の存在を提示しているテーマ性の強い作品である。 (デュオ) 舞台は現代の地球。主人公は、ピアニスト。推理小説のような展開で物語は進む。 (呪界のほとり) 舞台は遥か未来の、遠い星。呪界といわれる空間になっている星界の中心部を、瞬間移動するために開発された竜を連れた主人公が、呪界を外れて遭難したところから始まる物語。 (夜と泥の) 舞台は、遥か未来の殖民惑星。何十年ぶりかに再会した親友二人が、満月の夜に不思議な現象の見物に出かける。二人がそこで見たものは、 (象どられた力) 舞台は、遥か未来の3つの惑星からなる星系。形あるものを作るために必要なエネルギーを得て、形そのものが力ある存在として機能する世界。そんな世界が、形に翻弄される。 作者のつむぎだす言葉のひとつひとつが、確かな衝撃力を伴って読者に体当たりしてくる
ハードSFというよりは幻想味の強い4つの中短編を収録した一冊です。
表題作の「象(かたど)られた力」は、地球化が進められた惑星「百合洋(ゆりうみ)」が突然消滅。その背後には惑星独自の図形言語の謎が存在していると見られ、その解読がイコノグラファーのクドウ圓(ひとみ)に依頼される、という物語です。 豪華絢爛ともいうべき破壊描写と、しびれるほど甘美な暴力に満ち満ちた終盤は、言葉が織りなす力の奥深さをこれでもかと見せつけ、まさに圧巻というべき展開です。作者独特のこの物語世界は人間業とは思えないほど超絶的な想像力によって創りあげられていて、それを前にして私は目が眩み、果てには恍惚感すら味わいました。そして、森羅万象のめくるめく急激な変転を、無理なく一気に読ませるだけの豊潤な言葉を立て続けに繰り出す作者の力に、畏敬と憧憬の念を抱いたのです。 別の一編である「デュオ」は、ひとつの肉体を共有する双子の天才ピアニスト、デネスとクラウスのグラフェナウアー兄弟と、そのピアノ調律師として雇われたオガタ・イクオが主人公です。兄弟とかかわるうちにイクオが味わう不思議な体験の背後に、双子の隠された出自がある、という物語です。 兄弟が奏でる甘美な曲と、彼らの秘密とが、これまた研ぎ澄まされた言葉によって輪郭鮮やかに構築されていくさまは見事です。そしてまた、その纏綿(てんめん)とした謎がほどけたときに立ち現れる、作者の創造する天地のあまりの奇想ぶりに、私は軽い酩酊状態にも似た心地に陥ったのです。 2005年版「SFが読みたい」の国内作品第1位、第26回日本SF大賞、2005年星雲賞(日本短篇部門)と、数々の賞に輝く作品だけのことはあります。衝撃的な破壊力が言葉によって紡ぎ上げられる、まさにその現場を目の当たりにした高揚感を味わうことができる短編集です。 SFファンに限らず読んでほしい
味覚や視覚といった五感に関する描写・語彙の豊富さ、物語を物語る語りの巧みさ、描かれる異世界の幻想的な美しさなど、どれも一級品のできばえではないでしょうか。
初出がSFマガジンで、早川書房のベストSF2004でも一位になっているようにSFというジャンルの中で評価されることの多いようですが、ミステリーや幻想文学といったジャンルの作品を多く読む人にも読んでほしいと思います。
象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)を見てみる
クリエーターは「飛 浩隆」です。 この商品を買った人は他にも「グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)」、「ラギッド・ガール―廃園の天使〈2〉 (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)」、「レフト・アローン (ハヤカワ文庫JA)」、「老ヴォールの惑星 (次世代型作家のリアル・フィクション ハヤカワ文庫 JA (809))」、「クリスタルサイレンス〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)」、などにも興味を持っています。 |